teracce 胚凍結保存の目的と方法Q&A

医療コラム

Q1.胚凍結保存の目的を教えてください。

体外受精―胚移植のときに余剰胚を凍結保存し、後日あらためて胚移植を希望する時に融解して使用します。
その目的は

  • 1.余剰胚を無駄にしない
  • 2.1回の採卵あたりの移植回数を増やすことにより、妊娠のチャンスを増やし、経済的・身体的負担を減らす
  • 3.採卵とは別の周期に胚移植を行うことにより、妊娠率を上げる
     (子宮内膜の厚さや形状不良例、新鮮胚移植反復不成功例、高齢など)
  • 4.1回の移植胚数を少なくし、多胎妊娠を予防する
  • 5.卵巣過剰刺激症候群を予防する

などです。採卵周期に全ての胚を凍結保存し、別の周期に融解胚移植をする場合もあります。

Q2.どのような利点がありますか?

次にあげるような利点があります。

1.余剰胚の有効利用

1回の採卵で多くの受精卵が得られても、移植する胚以外は余剰胚となります。
余剰胚でかつ良好な胚を凍結保存することにより、1回目の移植で妊娠に至らなかった場合や、
1回目の移植での妊娠・分娩後に第2子を希望する場合に、凍結胚を融解して胚移植を受けることができるようになります。

2.採卵あたりの移植回数の増加

1回の採卵で多くの受精卵が得られた場合に、胚凍結を行っておけば、
採卵を繰り返さずに複数回の胚移植が実施できるので、採卵あたりの妊娠率が上がります。
また、経済的・身体的負担が軽減されます。

3.着床環境の改善

体外受精の採卵時には一度にたくさんの卵子を成長させる目的で排卵誘発剤を投与するため、
子宮内膜と胚の発育のタイミングがずれ、着床に障害を及ぼす場合があります。
胚を凍結保存することにより、自然周期またはホルモン補充周期の着床環境が改善された時期に融解胚を移植することができます。

4.多胎妊娠の予防

1回の移植胚数を減らすことにより、多胎妊娠を防ぐことができます。

5.卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の予防

体外受精ではHMG注射を使って排卵誘発をおこなうため、卵巣の反応の仕方によっては、
卵巣が腫れたり腹水、さらに胸水が溜まる重篤な副作用を発症する場合があり、妊娠することで症状が悪化する危険があります。
OHSS)の発症が予想される場合に、胚を全て凍結保存し、別の周期に移植することで、OHSSを予防します。

Q3.問題点はどのようなものがありますか?

胚は凍結・融解の段階で障害を受けないように保護剤・保存条件を考慮してありますが、
それでもある程度の障害を受けるのは避けられません。そのため、以下のような問題が発生することがあります。

  • 1.凍結・融解した胚は凍結前と比較して完全に同じ状態に戻らない可能性があります。
      また、頻度は大変低いですが、凍結・融解の過程において紛失する可能性があります。
      融解後損傷や変性を認めたり紛失したことが確認された場合には、
      融解胚移植の準備をしたにもかかわらず、中止になることもあります。
     (凍結胚が無事かどうか確認する方法は、融解して確認する以外に方法はありません。

      また一度融解した胚の再凍結は、胚の状態を著しく低下させるため、胚を融解して生存を確認した上で再凍結は行っていません。)

  • 2.凍結・保存・融解により、胚に影響を及ぼし、それが故に他の影響(先天異常児の発生など)を生ずる可能性は考えられます。
      今までのところ、先天異常児との関係は一般的には言われていませんが未だデータは十分といえないのが現状です。

      出生した児の長期予後について、今まで追跡調査が困難であったために正確なデータはなく、現在のところ不明です。

  • 3.胚の凍結保存管理には、万全を期するように配慮しますが、機器の故障・火災・天災・盗難など

       予期せぬ事態に対し100%安全の保障は不可能です。

  • 4.胚凍結保存・融解・移植という過程において「ヒトの生命の発生過程にヒトがどこまで手を加えてよいか。」

      という生命倫理の問題があります。本法の是非について患者さんご夫婦の理解が必要です。

  • などです。採卵周期に全ての胚を凍結保存し、別の周期に融解胚移植をする場合もあります。

Q4.凍結までの流れを教えてください。

図1に凍結までの流れをお示しします。排卵誘発や採卵までは通常の体外受精-胚移植の流れと同様に実施します。
胚凍結には、余剰胚凍結と全胚凍結の2通りがあります。
採卵後2日目(4~8細胞期)~6日目(胚盤胞)で可能ですが、当院では基本的には、以下1~3のいずれかを原則行います。

  • 1.4~8細胞期(採卵後おおよそ2日目)の良好胚を凍結します。
  • 2.体外受精(または顕微授精)-胚盤胞移植を希望された方には胚盤胞(4~6日目)での凍結を行います。
  • 3.4~8細胞期(採卵後おおよそ2日目)の胚を採卵周期に移植後、その余剰胚を追加培養し、胚盤胞(採卵後4~6日目)となったもの
  •    を凍結します。

Q5.どうやって凍結するのですか?

胚はそのまま凍結すると、細胞内に氷晶が形成され、細胞が破壊されてしまうため、凍結保護剤の中に胚をいれて凍結を行います。
凍結方法には、プログラムフリーザーという特殊な装置によって徐々に温度を下げていく緩慢凍結法と、
ガラス化(Vitrification)法別名急速凍結法といって特殊な保護剤を用いて急速に凍結する方法があります。
どちらも液体窒素にて超低温(-196度)で保存します。
当院ではガラス化保存法で凍結をします。

●ガラス化保存法

胚を平衡液に入れ、平衡化(細胞内の水分量と細胞外の水分量のバランスをとること)した後にガラス化液に胚を移します。
クライオトップと呼ばれる小さな小さな樹脂性の板の上に、ごく少量のガラス化液と胚を乗せ、

一気に液体窒素(-196度)に投入します。その後キャップをして、液体窒素内に保存します。

Q6.凍結保存期間はどのぐらいでしょうか?

保存期間は原則として1年を限度とします。上記期間を超えて期間延長の要請のない場合は事前通告なしに廃棄します。
こちらからは一切ご連絡をしません。

期間の延長を希望する時は、保存期間が失効する3ヶ月以内に患者夫婦双方が、受診しその手続きを行った場合に限り、
1年を限度として行います。
期間延長はその手続きが期限3ヶ月以内になされる限り何回でも可能ですが、
母体年齢が50歳以下を条件(凍結保存期間中に51歳になった場合、期限終了日まで特例として保存)とします。次回の延長が認められない時は、その旨を確認します。
やむをえない事情により(病気、事故、災害等)夫婦そろっての来院が困難な場合は、保存期間失効前に医師に直接ご相談ください。
上記期間内であっても以下のことが確認された場合はその時点で廃棄とします。

  • 1.患者夫婦が離婚・死別した場合
  • 2.患者夫婦の少なくとも一方が行方不明、自己判断能力の著しい低下及び欠如が認められた場合
  • 3.患者夫婦からの申告に虚偽の事実があることが判明した場合

   尚、廃棄となった場合、廃棄前に胚の保存状態を確認するために融解し、検査をすることがあります。
   それ以外での廃棄胚の使用は 原則として行いません。

さらに以下の点についてご理解とご了承をお願いします。

  • 1.予期せぬ事情(機器の故障、火災、天災など)により、凍結保存胚が使用不可能となった場合、
      患者さんご夫婦が支払った使用不可能となった過去1年分の保管料を当院が返還します。
      それ以上の責任は負いかねます。
  • 2.閉科や閉院のため、すでに凍結保存している胚を当院で取り扱いが不可能となった場合は、
      その時点で受け入れ可能な他施設に依頼し凍結保存胚の移送に伴う費用は当院が負担いたします。
    (ご希望の搬送先のある方は個別に対応いたします)
  • 3.胚の保管状況について電話やメールでの個別相談には応じかねますので、ご了承下さい。

      必ず患者さん夫婦で来院の上、ご確認下さい。

胚凍結保存は原則当院で不妊治療を行う目的で凍結を行っており、本来他院への移送は想定しておりません。
やむを得ない事情で移送をご希望される場合はかならず医師に相談してください。